舞台写真家が見つめる、パントマイミストたちの姿。

今、「パントマイムの写真」といえばこの人、写真家のGan 極楽商会こと岩船雅美さん。
作品の真髄を捉えて切り取るその写真には、出演者に対するリスペクトと愛情が溢れ、
アーティストの信頼も厚いカメラマンです。
長年に渡り撮影してきたパントマイミストたちの写真の数々、その膨大なコレクションより、
選りすぐりのパントマイム写真20枚を選んでいただきました。

撮影とコメント:岩船雅美

※『パントマイムを、撮る』写真展は、「ジャパンパントマイムネクスト2022」会場ロビーでも開催いたします。
こちらでは、オンラインとはまた別の写真を展示予定です。ご期待ください

Gan 極楽商会
(岩船雅美)

写真家。秋田県生まれ。College of Management, Mahidol University (Thailand)卒。沢田教一(戦場写真家)に憧れ13歳から写真を始める。1999年国際NGOに所属してタイに渡り貧困層の子どもたちに教育支援を行う一方、報道写真家「瀬戸正夫」氏に師事。多文化都市バンコクで数々の舞台を撮影、これぞ我が天分。2006年帰国。師匠の言葉「魂が写っていなければ意味がありません」を胸に様々な舞台撮影で活躍中。舞台人の魂を写し撮るのがライフワーク。パントマイムの魅力を写真に表わしたいのです。

001.「アップ&ダウン」

「アップ&ダウン」Yano Mime Live at バンコク・プリディパノムヨン劇場。1999年から2006年までのタイ在住当時、写真の師匠瀬戸正夫さん(朝日新聞アジア総局顧問・報道カメラマン)から紹介されて矢野さんのパントマイムや演劇舞台を撮り始めた。矢野さんのパントマイムはコミカルに観客を笑わせたと思えば、その深い詩情で心の湧き水に気が付かせてくれる。この写真の瞬間を撮ったことで、撮影は舞台に同期できることを学んだ。

矢野さーん、ありがとう!

撮影日:2002年10月23日
パフォーマー:矢野かずき

002.「十牛」

シアターパントマイムフェス2016(スタジオエヴァ)パンフレットから引用。300㎜の望遠レンズで見たママコさんの瞳は噛みつくような鋭さ。パントマイムって凄い!と瞳に見惚れて夢中になって撮りました。

『十牛 かつてアメリカの各大学でマイムを教えている時に禅の説話『十牛』をマイムにしようと考え、以後これまで様々に試演してきました。そして、それはライフワークの一つになりましたが、今また久しぶりにこれをやるべき時がきたように思っています。』

撮影日:2016年6月26日
パフォーマー:ヨネヤマママコ

003.「チェス事変」

「チェス事変」大見つよし&藍木二朗。SPC FES出演作品。39枚の写真をGanの写真サイトにアップロードしている。ぜひ観てください。https://flic.kr/s/aHsmPjQ9Fv
どの瞬間を撮っても静止画としてスタイリッシュなポーズになる…高速デュオである。そうですね、音楽でいえばスーパーギタートリオでしょうか。アル・ディ・メオラ、ジョン・マクラフリン、パコ・デ・ルシアです。呼応しあい、テーマに戻り、縦横無尽に弾きまくる。一つ一つの動きは炊き立ての新米のように粒がはっきり立っておいしい。パントマイムの技術も相当なものでしょうが、撮影もかなり大変でやりがいがありました。黒バックにimaginativeな照明。1/125程度のシャッタースピードで静止画にするには舞台の流れに同期すること。高速な流れでもかならず止められる一瞬がある。それを実地に学びました。Ganにとっては撮影事変でありました。 

撮影日:2017年9月16日
パフォーマー:藍木二朗 & 大見剛

004.「銀河鉄道の夜 Gray ticket, Green ticket」

SOUKIのエネルギーたるや「パントマイムは爆発だ!」 代表の江ノ上陽一さんを、敬意をこめてお呼びしたい「パントマイム馬鹿一代」。
生と死が鉄路でつながる世界、不思議が普通な世界を表現するには言葉を置いて行く。鍛錬された演者も照明も音響も素晴らしいアンサンブルでした。この写真は終劇の場面。向こう側の闇とこちら側の明かりと鉄路の反射光。劇中もダイナミックにメゾフォルテからピアニシモから宇宙嵐の如き叙事詩。これまた撮影の難易度が物凄く高かったのですが露出という言葉は置いて行け。俺は必ず撮るぜ、という自分も爆発した公演でした…公演後に数日かけて写真データを専用ソフトで現像してSOUKIに納めると「Ganさんから物凄い熱量の写真が届いた」というコメントをいただき、Ganはガッツポーズをしたのです。 こちらへどうぞ→
https://www.souki-mime.com/photo/gtgt2018.html

撮影日:2018年12月14日
パフォーマー:スーパーパントマイムシアターSOUKI

005.「BREAKTHRU」

「BREAKTHRU」江ノ上陽一さん。公演に先だって「昭和の荒れた感じで撮影してほしい」とご依頼を受けた。「灰色の街を再演するから。シアターXで」…「田原町ライブ!Part28」で発表した俺のソロ作品「灰色の街」人生の機微、悲哀ってやつをホームレスの男を通して感じてもらえればって創ったんだ」と江ノ上さんがSOUKIブログで書いている。「灰色の街」はGanもしみじみと好きな演目だ。Ganはブルーズミュージシャンを数多く撮っている。ブルーズは哀しい歌だけど、歌うことで救われていく。灰色の街には、確かに脈打つ心臓の鼓動がある。悲哀を演じる強いリズムがある。そこが、かっこよさ。事前の撮影も、舞台撮影も、そんな鼓動を感じて撮りました。Ganも激しいですね。

撮影日:2021年10月6日
パフォーマー:江ノ上陽一 (スーパーパントマイムシアターSOUKI)

006.「化粧」

「化粧」(スタジオエヴァ)バリ島の名うての仮面職人に造ってもらったという仮面。長井さんが「うちの娘」と呼ぶのを聞いたことがあります。衣擦れのように微かな動き、仮面が内面をひっくり返して心の震えが客席に滑らかな波紋を打ちました。そんなとき、Ganのシャッターを求める指もまた、夜の沼に映る月が揺れるように動きます。でも、そういうミニマムな動きには抗いようのない強い磁力がありますよね。長井直樹さんが、エヴァのシンプルな黒い空間に起こした何か、起きている何か、それを撮りたい、と思いました。今まで、ずっと思っています。

撮影日:2018年2月25日
パフォーマー:長井直樹

007.「Blind Picture」

「Blind Picture」細川紘未ソロ公演。松田充博脚本・演出。話の腰をサバ折りするが「獣拳戦隊ゲキレンジャー」という2007年放映の戦隊ものが最高に好きである。最終回に、血みどろの闘いを繰り広げ命を落とした敵の男女が黄泉の国から現れてゲキレンジャーたちを勝利に導くシーンがあった。その場面はすべて無言だった。あの偉大なフォーク歌手、高田渡は「ブラザー軒」で「ふたりには声がない ふたりにはぼくがみえない」と歌っている。仙台空襲で死んだ親父と妹が七夕の夜にブラザー軒で氷すいを食べに現れる歌だ。あちら側の世界には声がない。Blind Pictureには深い感動を覚えた。これは土着の神話の世界だ。ドリームタイムとはこういう世界ではないか。パントマイムはあちら側の世界を彷彿させる。そういう思いで、撮った。

撮影日:2020年10月9日
パフォーマー:細川紘未

008.「アイドルとマネージャー」

「アイドルとマネージャー」歩&小島屋万助。親子ほど年の離れたデュオの、この演目は狂暴な女子高生アイドルとマネージャー。アハハと笑って撮りながらも、Ganは小島屋さんの慈しみの眼差しと歩さんの敬愛の瞳を見逃さぬ。これは「老人と海」…では、真剣にアホを追求するアユコジには格調が高すぎますね。「1,2のアッホ」(コンタロウ)という1980年頃少年ジャンプに連載されていたギャグ漫画をご存知でしょうか。アバンギャルドな老監督と彼を慕う少年の物語。破壊度の強いギャグを横糸に世代間を結ぶ縦糸。しっかりと織られたアユコジ…ですが、この見事な歩さんのキック。現場ではただただ舞台を追って撮るのに精一杯。後からこうして、ほっこりするのです。舞台がはねて家路につくお客さんも、きっと電車の中でそういうほっこりに揺られるのじゃないでしょうか。

撮影日:2018年4月27日
パフォーマー:アユコジ

009.「ロングディスタンス」

「ロングディスタンス」2019年公演に続く再演。細川紘未さんの師、並木孝雄氏原作。Ganはその頃を知らないから北さんと細川さんの初演を新作として観て、再演を熱望していた。快哉を叫ぶ開催である。こうして写真をPC現像しコメントを書いている今も気になっている。あの旅芸人の二人はコインの向きに従ってどこに行ったのだろう。いまどうしているのだろう。投げ銭も集まらず疲れ切った二人がパントマイムで出現させた素敵なディナー、舞踏会。あの場面はパントマイムのロマンに溢れ、北さんと細川さんの魂の喜びが見えるようだった。次回公演はいつだろう。また会いたい、あの二人に。

撮影日:2022年11月5日
パフォーマー:北京一 細川紘未

010.

今年の元旦イベント「もとまちぶらンチ」特設ステージにて(福島県南相馬市原町区本町)。降雪の少ない地域なのですが突然の雪がみるみる降り積もり厳寒となりました。お客さんたちはドラム缶ストーブや火の気があり風もさえぎってくれる屋台テントの側から遠巻きに楽しんでいました。が、その吹きさらしのステージで演じるちゅうサンを一人の男の子がずっとかぶりつきで見ていました。それは楽しそうに笑いながら。後からちゅうサンは「あの子のために演ってたよ」とおっしゃってました。Ganのカメラも、寒さのためバッテリーの早い減りを気にしながらの撮影でしたが、この1枚、それはそれは。あの男の子の幸せくらい、嬉しいですよね。

撮影日:2022年1月1日
パフォーマー:ちゅうサン

011.「チャーリー山本」

「チャーリー山本」福島県南相馬市原町区本町の「もっとまつり」(喜楽主催)。その人がいるところが舞台。年季の入った酒屋さんが舞台になった。この強靭さ。惚れます。惚れますとも。いよっ!名人!

撮影日:2022年11月4日
パフォーマー:山本光洋

012.「サッドネスブルース

田原町LIVE Part29から。キャネコさん、色っぽい。2018年の田原町LIVEだったろうか。初めて見たときに、なんて色っぽいんだ、と思った。男の色香、っていうのを感じるんですよね。がっしりした体格に苦みのきいたハンサム。そこに潤むような色香がある。盲目のパントマイミストであるキャネコさんは、舞台にタコ糸を張り巡らせて位置を掴むのだそうです。視覚なくして、きっとキャネコさんは動きそのものになって、おはなしに「触れている」のだと思います。触覚って、色っぽいですよね。ざらりとした手触り、すべすべとした滑らかさ、ごつごつ尖った刺さるような鋭さ。キャネコさんに触れている感じ、そこにGanはとても魅かれています。

撮影日:2019年12月19日
パフォーマー:金子聡

013.「時我自感」

「時我自感」マイムトループ★グランバルーン公演(細川紘未・ながいなおき・阿部邦子・平光司・かけくみこ)  スタジオエヴァで撮影。ストレッチ用のマットを敷き、その上にメンバーが横たわってポーズをとった。そして、Ganは脚立に乗って一脚に装着したカメラを伸ばし、セルフタイマーをセットして真上からメンバーを撮った。OLYMPUS E-M1とM.ZUIKO 12-40mm f2.8PRO という軽量で小ぶりな機材。絶対に落下しないように厳重にセットしたが、なかなかスリリングな撮影だった。できあがった写真をカメラの背面液晶で確認して、「やったー💛」と喜びあったのであった。この写真(も)いいですよね~(^^ 大好きなんです。

撮影日:2017年11月16日
パフォーマー:マイムトループ・グランバルーン

014.「マイム詩集 薔薇」

「マイム詩集 薔薇」2017年シアターパントマイムフェス(武蔵野芸能劇場) あらい汎さんの舞台は、この時が初めてだった。2016年4月に矢野かずき東京公演@スタジオエヴァから日本のパントマイムを撮り始めたGanにとって、シアターパントマイムフェスはパントマイムの百貨店だった。あの頃は、パントマイムの動きそのものに魅かれていた。まず望遠レンズで演者の瞳を見て、そして動きそのものに注目して撮っていた。動きの意味を瞳の表情に求めていたのだろう。5年経った今、写真を見て思う。動きと意味を分離しても、それこそ意味がない。瞳も動きも素晴らしく魅力的だ。でも、それは舞台上であらい汎さんが、薔薇というできごとを起こしていて、その起こすことが詩だから、だ。

撮影日:2017年7月2日
パフォーマー:あらい汎

015.「ひまわり」

「ひまわり」2017年シアターパントマイムフェス(武蔵野芸能劇場) 清水きよしさんの舞台も、この時が初めてだった。この写真には、Ganの感動が写っている。伸びやかな視線、少年の日の新鮮な驚き。パントマイムの瑞々しさ、は、きっと言葉がないから。言葉のラベルを貼って分類しないからなのだろう。ひまわりが種から芽吹き葉をしげらせ大輪の花を咲かせて枯れてゆく、その段階に区分けなと本来はある筈がない。「束の間だったような気もするし ずっと続いてたような気もするし」(「月蝕」あがた森魚) 清水きよしさんのパントマイムに、「わあ…」という、言葉で区切る以前の感動の原体験を感じます。それこそ、パントマイムならでは、なんですね。今はそう感じます。

撮影日:2017年7月2日
パフォーマー:清水きよし

016.「停戦」

「停戦」woody soloから。教会の鐘が鳴り停戦を告げた。敵同士が出会い、煙草をすすめ、家族の写真を見せあう。また鐘が鳴り、二人は殺し合う相手に戻っていく…woodyさんが飄々と淡々と二人の交流を演じる。Ganが思い起こすのは、貧困家庭の子どもの教育支援のため、NGOスタッフとして北タイの山岳民族モンの村を巡った日々だ。同世代のモン人のスタッフは、少年の頃に東西代理戦争の激戦地だったラオスから親に背負われてメコンの大河を渡り、タイ側の難民キャンプに逃げ込んだという。あるいは、カンボジアの同世代のスタッフは、少年の頃にポルポトの支配地から逃れて数か月もジャングルを迷った末にタイ側の難民キャンプに辿りついたという。彼らが「停戦」を観たらどう感じるだろう。そんな思いを糧にして、Ganはこの名演を撮った。

撮影日:2022年11月20日
パフォーマー:woody

017.

国際シアターパントマイムフェス2018 イタリアから来日のマテオ・チョニーニさん。この写真は、後にマテオさんのオーストラリア公演のポスターになりました。ダイナミックにして面の広いパントマイム。身体の厚みに回り込む光。この翌年に、Ganはイタリアから来日したブルーズミュージシャンとクラシックミュージシャンを撮影したのですが、マテオさんのパントマイムに感じた、光の回り込みが、ミュージシャンたちのLIVEを撮影する土台になりました。不思議なのですが、音の響きや光の回り込みには共通する何か、があるのですね。だって、マテオさんの演目はクレイジーな指揮者のおはなしだったのです。

撮影日:2018年6月24日
パフォーマー:Matteo Cionini

018.「仏像」

「仏像」ゆるっとマイム、での公演から。様々な仏像を出現させるヘルシー松田さん。お客さんがえ、ええっ?と目を凝らすと、次の仏像が出現している。そのタイミングも見事でした。もっと見たくなります。Ganは撮影しているから、こうしてじっくりと見ることができる。役得ですね。Japan Pantomime Nextでのステージが楽しみでしかたありません。 超望遠でヘルシー松田さんの魅力に迫ろうと考えてます。

撮影日:2022年9月18日
パフォーマー:ヘルシー松田

019.「THE BODY」

JAPAN PANTOMIME NEXT (2019)のステージから。300人の客席をギュッと惹きつけた華麗なパントマイム。まずはきゅっとした筋肉質のきれいなフォルムに惹きつけられ、流麗な動きに仮面のトリック、そして現われたハンサムな素顔。まさにTheatrical Pantomimeの魅力。
パントマイムは、「その人」の個性が魅力になるのだと感じます。

撮影日:2019年8月4日
パフォーマー:TENSHO

020.

PANTOMIME NEXT ですから。Youngster に登場していただきましょう。Super Pantomime Theaer SOUKI の星ですね。SOUKI主催の公演「BREAKTHRU」の宣材写真を撮ったとき、二人には青空をバックにしてジャンプしてもらいました。SOUKIのaRt/Pit スタジオがある浅草のビルの屋上で。快晴でした。長い年月、パントマイムを撮ってきて良かったな、ってGanは思いました。まわるまるよ時代はまわる。めぐるめぐるよパントマイム。WELCOME TO JAPAN PANTOMIME NEXT!

撮影日:2022年4月24日
パフォーマー:是永航&定金来音