スペシャルトークショー

「パントマイムの現在を語るvol.1~創作の秘密を語る~」

(2022年12月18日、シアターXロビーにて モデレーター:小島屋万助、 登壇者:伝三F、ヘルシー松田、前田秀、山田ヒデノリ)

ページ内全ての写真:©︎Gan 極楽商会

小島屋万助(以下、小島屋) ステージ上で上演するマイムは、パントマイミストがそれぞれ独自のスタイルを追求していますが、今回はどのように作品を作っていくのかというテーマで皆様に話をお聞きしたいと思います。

(登壇者の自己紹介を行う)

マイムの着想をどこから得ているか

小島屋 早速、質問に移りますが、普段、どういうふうにマイムの作品の着想を得ているのか。ヘルシーさんは、いかがでしょうか。

ヘルシー松田(以下、ヘルシー) テーマを決めて作るのではなく、ふと浮かんだことを作品にしています。

小島屋 ちなみに、「日本の仏像」は、仏像を見てぱっと浮かんだのですか。

ヘルシー 仏像はよく金剛力士像だけマネしていました。ある時、原宿で修学旅行の生徒が来て、妙に仏像の作品が盛り上がってしまって、「今度は千手観音やってください」と言われて披露しました。一番新しくぱっと浮かんだ作品が、日本の女性の泣き方。研究していた女性の泣き方を試しで披露したら、かなりウケたので作品にしました。日本の女性の泣き方って、梅干しタイプの人、わさびタイプの人、山椒の実をかみしめたタイプの人という3つのタイプがあります。

小島屋 ちょっと見せていただけますか。

ヘルシー これは別れのシーンで演じます。

(3タイプの人を実演する)

ヘルシー すべての女性の泣き方は、この3つに当てはまります。今度、泣かれた時に、あっ、わさびだ、山椒だと分かると何かの役に立つかもしれません、笑

小島屋 ヘルシーさんの場合、動きと感情をどうやって面白く見せるか常に考えているのですね。伝三さんはいかがですか。

伝三F(以下、伝三) 今回、「踊り子さん」というタイトルで上演しましたが、この作品は、ヨネヤマママコ先生の内弟子に入って、卒業した時に新聞記事を見て着想を得ました。あるストリッパーの記事が新聞に載っていて、彼女の生き方に非常に感動しました。これを絶対作品にしたいと思って、その女性に何度も頼んで断られて、13回目にOKが出ました。3人の子どもを育てた貴重な経験、女性としての強さに感銘を受けて、作品にしました。

小島屋 では、山田さん。

山田ヒデノリ(以下、山田) テレビとか本とか、道を歩いてたりして、最初に1個オチのようなのが浮かび、そこから作品にします。例えば、今回の「パソコン講座」では、ウインドウとは、窓の事ですというのが浮かんで、それから組み立てようと思って、パソコンに類することを一気に紙に書き出して、それを組み立てて作っていきます。それから「鏡」という作品は、一時期、人の歩き方にとても興味がありました。札幌の大通り公園を歩いている色々な人を真似して組み立てたのが、「鏡」という作品の土台になっています。

小島屋 やはり、人間観察ですね。電車に乗っていて、面白い人がいて、その人の背景を勝手にどんどん想像していくとか、割とそういうところから発想しています。前田君は、いかがですか。

前田 パントマイムしか作れない空間や時間軸が自在に変えられて1つの舞台上で演じられることが大変魅力的でそれは、他ジャンルで表現できないと思っています。かつ笑いだけではなく、泣けること、社会に対するメッセージ性といった広がりが作品作りで一番大切だと思っています。自分は、必ず泣きの作品、笑いの作品とメッセージ性のある作品とすべてを1つの公演の中に入れることを意識しながら作っています。あとは、あとキャラクターも、お年寄りから赤ちゃんまで演じられることが素敵だと思います。

小島屋 それで、今回の作品は。

前田 今回の作品は、“パントマイムである”ことを表現する作品って、自分は割と好きで、“これがパントマイムでした”という作品が2~3個あります。その中の一つとして作りました。壁がある演技で、お客様に認識をしていただくけど、実はないという、選択肢を揺らすことが好きで、よくそういう裏切りを作っていたことがきっかけです。

作品の影響を受けたパントマイミスト

小島屋 次の質問です。今までパントマイムを上演する中で影響を受けたパントマイミストは誰でしょうか。ちなみに、私はヘルシー松田さんにかなり影響を受けました。初めに、大道芸でヘルシーさんを見て、大道芸でこんなに面白い人がいるのかと思いました。ヘルシーさんは、影響を受けた方は誰でしょうか。

ヘルシー チャップリンやマルソーは、勉強するにあたって影響を受けています。パントマイムを始めた時は、日本マイム研究所の先生から、「天井桟敷の人々」のジャン・ルイ・バローを見た方が良いと言われて、映画館で満員の中で観た記憶があります。あとは、普通の人からヒントを得ることが多いです。

小島屋 逆に普通の人が先生ということですね。では、伝三さん。

伝三 パントマイムと関係ないといえないと思いますが、「ドクトル・ジバコ」を書いたボリス・パステルナークという作家に影響を受けました。忘れないようにするため、手帳を買ったら、絶えずパステルナークの言葉や文章を書いています。彼の文章に大変衝撃を受けて、手帳の言葉を胸に刻んでいます。

小島屋 それが伝三さんのマイム作りの原動力になっているのですね。山田さんは。

山田 1985年に、札幌にロバート・シールズというアメリカのパントマイミストがやって来たのです。昔、サントリーのCMで人形振りを演じて有名な方です。彼の公演を観て、感銘を受けてパントマイムを始めました。それからパントマイムの学校に行った後、影響を受けたのが小島屋さんです。小島屋さんが札幌に来られた時に一緒に出演しました。そこでショックを受けて、コメディを志向するきっかけとなりました。

小島屋 泣かせる作品もあります、笑。

伝三 ロバート・シールズをアメリカの演劇学校で教えたのが実はヨネヤマママコです。

小島屋 前田君は、誰に影響を受けましたか。

前田 一番影響を受けたのはラーメンズの小林賢太郎さんです。小林賢太郎さんはしゃべる作品を作るのですが、真っ黒な舞台に真っ黒か真っ白な衣装で、箱一個で全然違う空間を表現します。その公演の何が面白いのだろうと研究して、マイムが面白いと気づいたのです。

小島屋 質問コーナーに入りますが、会場の皆様から質問はありますか。

観客A 1つの作品をブラッシュアップすると思いますが、例えば、今回、ヘルシー松田さんの作品で、赤ちゃんが初めて歩く時は、腹ばいになっているところから始まっているバージョンも以前お見かけしましたが、今回は歩くところから始まっています。それは、何かあって変わるのでしょうか。

ヘルシー やっぱり、若い頃は、腹ばいになっても弾んで動きましたが、段々と年を取ってきてキツイな、笑。以前は、腹筋で弾んでいたのです。信じられないくらい体力があった。今、それをやると、よいしょって。

観客B このようにパフォーマーが集まった時は、どんなことをお話されるのでしょうか。共通の話題って何かありますか。

前田 自分が今回参加して、昔話が非常に多いです。同じ現場でお会いしていた方が、それぞれで活動しているので、中々お会いする機会がありません。久しぶりにお会いした中で、何年か前の現場の話を聞けて面白いです。

小島屋 あと、みんな先生が違っていて、流派の違いがあるので、パントマイムのテクニックの違いとかよく話したりします。こういう機会が本当にないので、マイミスト同士がいっぱい集まって、お互いの作品のことを話したりできることってとても良い機会です。

オンライン公演での工夫

小島屋 時間があるので、もう一つ質問します。コロナ禍で、オンライン上演が増えていますが、オンライン公演を作るのにあたって、特別に工夫したりするでしょうか。

山田 オンラインのみの場合は、テロップを入れたり、文字を付けたり、吹き出し付けたりとか、後から編集で入れることがあります。

小島屋 オンラインで、演技が変わるとかありますか。

山田 (画面で)片方から見られないので、きちんと映るようにするとか、スマホで観るために縦長に作るとか、そういう配慮をします。

前田 オンラインは環境の問題が大きいと思っています。劇場は暗い客席で集中しやすい環境ですが、オンライン上だと、例えば、家でちょっとコーヒー飲んだりしながら観れるので、オンライン上で見せる作品で集中力を求める作品は非常に難しいと思います。

小島屋 だから微妙なニュアンスがある表現が続くと難しい。

前田 演じることは問題なくても、見る側がそんなに集中しないので、間が持ちません。舞台で見せる作品とオンライン用の作品は分けないといけないと気がしています。

ヘルシー 世の中が進歩していますが、FAXが便利で止まっています。逆に小さな子供は紙芝居を喜んで見るそうですね。絵が止まっているのが面白いそうです。だから、まんざら(時代から)遅れても良いかなと思っています。

小島屋 人がやっているというライブ感が一番良いと思います。ありがとうございました。

(了)

*文章:佐々木麗明